TOP > 受賞作品 > 第9回 コミック部門
歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
349作品
最終選考候補
8作品
コミック部門の最終候補はビームマンガ大賞の入賞者がノミネートされます。
選考委員
しりあがり寿(マンガ家)、桜玉吉(マンガ家)、呉智英(評論家)、 奥村勝彦(コミックビーム編集長)
総評
呉 智英
全体的に読みやすく、楽しんで選考させて頂きました。そして、その結果、現時点での完成度の高さで『いろはにほへと』、『ののじ』の2本を佳作に。『灰になる』、『かくにんげんし』の将来性を評価し奨励賞としました。毎年感じることなんですけど、技術的なレベルアップは本当に目覚ましい。ただ、その分、今までに見たこともないような、非常識なパワーを持った個性が現れにくくなっている気がします。でも、それこそが新人賞の本来的な意義であるように思うので、来年以降も引き続き、そういった個性の発現を期待したい。
しりあがり寿
今回もバラエティに富んだ作品が集まり、楽しんで読ませて頂きました。僕の評価だと今回の選考の対象作品は全てそれぞれ必ず一点は面白い部分があって、ポイントの絞り方がみんな上手いなあと感じました。……でもまあ、これだけいろんな角度で漫画が描かれるようになってくると、今後、なかなか目新しい視点で描くのは難しくなってきますよね。それは僕らが新人だった頃には無かった状況だなあ。それだけ、漫画の技術水準が上がってきてるんでしょうね。
桜玉吉
今回も力作が揃っているなあ……って印象。ただ、昔のアスキー時代から、エンターブレインを知っている身としましては、かつて大勢いた『何考えてんだコイツ?』みたいな、イイカゲンな応募作が、毎年、減っている……と聞くに付け、しょうがないのかなあと思う反面、寂しいなあとも感じちゃうんですよ。そんなノリからオレとか羽生生君とかが出てきた……ってのも事実なんで。一体、どこ行っちゃったんだろうね? あんなハガキ1枚に4コマをペロッと描いて送ってきた連中。
奥村勝彦
選考では呉さんのおっしゃった通り、完成度で『いろはにほへと』、『ののじ』。将来性で『灰になる』、『かくにんげんし』の受賞が決定しましたが、どちらを上位に置くかで悩んじゃいました。んで、結局、現時点の実力を優先すべきであろうとの判断から、以上の結果と相成りましたが、ま、正直、そんなに実力差は無いです。それから、各審査員から、なかなかエポックメイキングな新人が出づらい状況があるとの指摘がありましたが、これは我々現場の人間が、ここ十年直面している問題でして、一朝一夕では何ともならない……ってのが、私の結論。でも、こればっかりは諦めるワケにはいかないので、今後も新人発掘の手は緩める気は毛頭ありません。
受賞作品
◆佳作
『いろはにほへと』
★作者:黒須高嶺(くろすたかね)
プロフィール:1980年埼玉県生まれ。大学在学中から本格的に漫画を描き始める。しし座O型。男。
★受賞者コメント
ありがとうございます。お恥ずかしい話ですが、目下のところ「自分にとって漫画とは何なのか」というでっかい難問の前で右往左往している最中です。もっと突き抜けてその先へ進みたいです。頑張ります。
★作品内容
高校に通う主人公は、母と二人暮らしの女の子。父親の離婚後、母は特に臭いに敏感になり、主人公も同じく臭いを気にするようになってきた。そんなある日、通学の途中、偶然にも主人公は橋の下に住む浮浪者と知り合い……。
【選評】呉智英
絵はさわやかだし、全体的な印象は良い。ただ、展開が凡庸で面白みに欠ける。もっと突き抜けた描き方をしないと埋もれてしまうかもしれない。ただ、それ以外は相当な水準なんで、今後の努力に大いに期待したい。
【選評】しりあがり寿
新人とはいえ相当こなれているし、テーマも悪くない。ただ、やっぱり『なんかありそうな作品』という印象を持たれてしまうのは、プラスアルファの要素が足りないんだろうな。臭いの表現をもっとつめてみるとかが、必要だったんだろうね、きっと。
【選評】桜玉吉
上手いんだけど物足りない。臭いを描くんなら、もっとエグくやんなきゃ。ただでさえ臭いってディープなもんなんだし。橋の下に住んでるオヤジの臭いは、こんなモンじゃねーだろ……って思っちゃいました。惜しいですね、本当に。
【選評】奥村勝彦
まあ、新人の作品ってのは、だいたいこうなんだろうな。編集的には“追い込みの甘い”作品ってコトになる。そのままでも、そこそこ面白そうに見えちゃうから、余計にヤバイんだよなあ。面白いってえのは、その向こう側にあるモンですんで。
◆佳作
『ののじ』
★作者:武嶌波
プロフィール:1981年生まれ。♀。育ったのは八王子。でも今は神戸在住。卒業したのは芸術高校の油絵コース。でも今は漫画家を目指し中。趣味はバードウォッチング。でも鶏肉は大好き。
★受賞者コメント
賞を頂けるとは思ってもみませんでしたので、大変驚きました。マンガ道を歩む上で心強い励ましとなりました。ありがとうございました。心を込めて描いていきたいです。
★作品内容
“かのこ”は真面目で一直線な女の子。彼女は何故か、街中を“グラウンドに石灰でラインを引くヤツ”を片手に疾走!! 警官に注意されようが、お構いなしに、ただただ疾走!! 一体、何のために? それはクラスメートから言われた一言が発端だった。
【選評】呉智英
素直でさわやかな作風が良いです。展開も無理が無くサラッと読める感じ。今回はやや重めの作品が多かったので、さらにその良い部分が目立ったような気がします。ただ、その分、“濃さ”が足りないのが欠点といえば、そうなんでしょうけれども……。
【選評】しりあがり寿
こういった“人を良い気持ちにさせる”才能は、素直に評価してあげたい。ただ、このままメジャーな方向に進むのであれば、ちょっとやそっとじゃ頭角を現すのが難しい世界なのも事実。ライバルは多いでしょうから。何か強力な武器がないと大変でしょうね。
【選評】桜玉吉
い感じで絵もこなれていて好感を持てる。“石灰のコロコロ”と女子高生の制服の下にジャージを着るのに着眼したのは、さらに好感が持てる。ああ、そういや、その手があったか!……という感じ。もっと、その辺をさらにクローズアップする手はあったかもしれない。
【選評】奥村勝彦
例えば、この作品を他の若い編集者に見せられれば雑誌に載せますけど、もし、俺が直接担当していて、本人から見せられたらボツにしちゃうでしょうね。器用貧乏にさせたくない……って思っちゃうから。まだまだ踏み込んで描けるだろう。余裕こいてんじゃねえ……なんて言ったりして。
◆奨励賞
『灰になる』
★作者:市川聡美(いちかわさとみ)
プロフィール:静岡県出身、愛知在住。♀。ちょっと不便なぐらいが好みです。
★受賞者コメント
びくびくしながら描いたまんがです。もっと、自信を持って人に見せられる作品で賞を貰えたらいいな、と思いました。講評を活かして精進します!
★作品内容
裁縫工場に勤める少女・ヤグーは、仕事を二日間休み、叔父の葬儀へ出掛けていた。叔父は偶然、工場の同僚であるクズリに似ていた。そのせいか、ヤグーは死のイメージが、止めどなく広がり、彼女の胸に迫ってくるのだった……。
【選評】呉智英
現時点では、話がわかりにくく、主題もはっきりしない。絵も未熟なんだけど、何かがありそうに思える。まだ若いし伸びしろに期待したいが、変に偏った描き方をするのだけは止めて欲しい。
【選評】しりあがり寿
自分の学生時代に、これだけ描けてたらきっとスターですよね。だから、決して下手ではないのだけど、描きたいモノが伝わってこないのは、未熟って言うしかないんだろうなあ。ただ、描きたいものがあるのはわかる。
【選評】桜玉吉
描きたいモノは伝わってきた。ただ、それが元々あやふやなモノだったんだと思う。逆に言うと、あやふやなまんま良く描ききったなあ……って感じた。も一ついうと、も少し、人間以外も、ちゃんと描いてあげてね。
【選評】奥村勝彦
描きたいモノがあるのは、コッチ(編集者)的には楽です。要はそれを表現することに対する障害を除けばいいだけだから。手間のかかる作業だけども、楽しい作業でもありますから。
◆奨励賞
『かくにんげんし』
★作者:川崎ロケット(かわさきろけっと)
プロフィール:神奈川県出身の24歳。♂。美術系の学校卒業後、地元のホテルに就職、熱心に働くがリストラで加速度的に仕事が増やされ嫌になって退職。趣味はキューブリックの映画とテパートのインテリア売り場を眺めること。
★受賞者コメント
このような賞を頂き非常に嬉しく、励みになります。これからも描き続けます。ありがとうございました。
★作品内容
どこかの世界の“ニッポン”。全員が何故か奇妙な宇宙服のような服装。でも、通勤電車内で、家庭で“普通”の情けない日常が繰り返されていた。だが“2010年”、“ニッポン”は戦争に突入し、異常な状況に突入しようとしていた。
【選評】呉智英
設定も絵も面白い。だけど、全体的に構成を見た時にギクシャクしてて未消化な印象がある。オチもSFとしては凡庸。ただ将来は伸びる可能性を感じます。
【選評】しりあがり寿
これも好きな作品。ただ、後半の展開には無理を感じるので、前半の電車のまんま行っちゃうのもアリだんじゃないかなあ。無理して、かえってわかりづらくしちゃった気がします。
【選評】桜玉吉
レベルは高い。この年齢で漫画に必要なものをきっちり持っているような気がする。世の中もちゃんと見てるし、ヘソの曲がり方も悪くない。ただ、何か一つ足りないような気がするんだよなあ……。
【選評】奥村勝彦
スッキリした絵柄で、いろいろチャレンジしようという姿勢がいい。まだまだ若いので、このまま試行錯誤を繰り返してってくれれば、いいんじゃなかろーか。