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歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
384作品
最終選考候補
6作品
選考委員
青柳昌行(エンターブレイン常務取締役)、河西恵子(ファミ通文庫編集長)、ファミ通文庫編集部
総評
青柳昌行
感覚的なものですが、各作品ともに“ライトノベル”とはこういうもの、“ジュブナイル”とはこういうもの、それこそ“ファミ通文庫で求めているもの”とはこういうもの的な型にはまった印象をうけました。賞に応募する際に、それを意識するのは悪いことではないのですが、それに縛られすぎてしまっては既存作の範疇を超えることができないのは自明の理です。世間に求められているモノの上に、どれだけ自分の感覚を上乗せできるのか! 新人だからこそできるチャレンジを期待する次第です。
河西恵子
今回は初の編集部選考である。自分たちが作り、自信を持って売るには、まず自分たちが責任を持って選ぶことから始めるべきではないか。受賞をした作品は、必ずヒットさせていく、それがファミ通文庫の将来を担うはず、という目論見である。だが、選考は難を極めた。それもそのはず、十人いれば十人の考え方があるもので、“確実な商品化”“読者により共感を得られる作品選び”など共通認識は持ちながらも意見は分かれ、議論は紛糾した。その中で、一つ見えてきたものがある。選ばれるべき作品には、たった一人であっても熱烈な支持者がつくものだ、ということである。今回、熱い支持のあった作品が受賞した。そしてまたその熱い想いは、必ずや読者にも届くものと信じたい。
受賞作品
◆優秀賞
『ボーイミーツガール オン ライン』
★作者:岡本タクヤ(おかもとたくや)
プロフィール:1983年、兵庫県生まれ。東京大学教育学部卒業後、所謂穀潰しになる。昼間から酒が呑める身分になったと喜んでいたが、冷静に考えればどうしようもないことに気付いた4月に書き始めた小説でこんなことになる。
★受賞者コメント
ことの展開が早すぎてよくわかりません。誰にも見せずにひとりで創っていた物語が、このように多くの方の眼に触れる機会を頂けたということに感謝します。
★作品内容
高1の速水真一は、世界最強というかつての夢を今はオンラインの世界で追っている。事故で格闘技を諦めた後、抜け殻のようだった真一。だが、一対一で戦い勝率ランクを競うオンラインゲームに再び夢を見出し没頭していく。そこで真一は白い剣士・アスミと出会った。最強のプレイヤー『闇』に会うため行動を共にし、打ち解けあう二人。アスミにとって『闇』は恩人で、どうしても対決しなければならないという。そんな中、真一はアスミが同じクラスの人気者、真山明日美だと気付く。しかし周囲となじめない真一にとって、オンラインでのアスミが全てだった。ところが共に学園祭の実行委員になったことで現実の生活でも二人の距離は縮まり、真一は次第に明日美とアスミをだぶらせていく。そんな真一に明日美は、学園祭翌日に転校すると告げる。そして引越し前夜、ついに『闇』と対決する時がやってくる! オンライン/リアルの境界を超えたボーイミーツガールを爽やに描き切る青春ストーリー!
【選評】青柳昌行
真っ直ぐな作品です。それが題名に表われています。というか、題名を見るとストーリーが丸わかりです。それぐらい真っ直ぐなのです。真っ直ぐなので読後感も爽やかですし、キャラクターにも好感が持てましたが、その一方で平坦なイメージがあるのも事実。良い意味での“アク”がもっとあるとよいかと。現実のゲーマーやネットゲームの世界は、もっとクセがありますから。
【選評】河西恵子
まずは他の作品にない読後感のさわやかさが好印象であった。文章も難解で奇を衒った書き方をせず、語感や、センテンスの区切り方などで、センスが感じられた。ドラマとしてはいささかシンプルで、メリハリ不足という意見も多かったが、最近ブームのネットゲームの世界と、リアルな青春がうまくリンクされたボーイミーツガールがギリギリで描けていた。良いテーマとドラマを追求していけば、共感性の高い作品を書いていけるのではないか。
◆優秀賞
『Caos Kaoz Discaos カオス・カオズ・ディスケイオス』
★作者:小野正道(おのまさみち)
プロフィール:1984年冬、茨城生まれ。大学四年次、出版社を中心に就活をするも全滅。結局、就職出来ないまま卒業。堅実な道を歩もうと公務員試験に向けて勉強している最中、受賞の連絡を頂く。勉強を継続するかが現在の悩みどころ。
★受賞者コメント
稚作をこのように評価して下さり、恐縮の至りです。おそらく今度も駄目だろうと考えていた中の受賞でしたので、まさに驚天動地の出来事でした。しかしこれで満足せず、以後も更なる精進を重ねて参りたいと思います。
★作品内容
女名前に女顔だけど凶悪なほど非常識な少年・芙弓と、彼を慕う天然ロリっ娘・エミル。共に暮らし兄妹のようにじゃれあい、同じ高校に通う二人だが、彼らにはもう一つの顔――警視庁公安部第零(れい)課の特殊機動捜査隊員という肩書きがあった。公的には存在しないはずの零課の任務は、闇にはびこる禁断の“研究”を抹消すること。その研究とは、人間の心に干渉して異能を引き出す“悪魔の所業”であり、そこには残酷な人体実験も辞さない非道な現実が伴う。実は芙弓とエミルにもこの研究の実験体だったという過去があり、心身に残る“悪魔”の禍々しい爪痕と狂気を内包しながら生きてきたのだった。ある日、レイと名乗る青年が二人の元に辿り着く。研究所から脱走してきたという彼は、残してきた仲間を助けたいと懇願する。自らを縛る壮絶なトラウマと身を削って向き合い、冷酷な敵に挑む芙弓とエミルだが――!? “悪魔”を宿すモノたちが繰り広げる、美しくも凄惨なバトルアクション!!
【選評】青柳昌行
設定、キャラクター、ストーリー展開、どれもが今をつかんだ作品だと思います。アクションの描写なども迫力十分ですし、映像として素直に頭に浮かんでくるのも良いかと。それだけに、ヘンにテンポが悪く、読んでいて“長い”と思えてしまうのは“惜しい”のひと言。ラストシーンでいまひとつ乗り切れなかったのですが、そこにいたるまでの流れをもう少し刈り取れていれば違っていたかも。
【選評】河西恵子
シリアスな設定を、一見明るいキャラクターたちの軽妙なやり取りに乗せて淡々と描く、というのは最近のライトノベルの定番とも言える。ただ、意外とバランスが難しいものだが、この作品は、それなりに計算された構成と、ストーリー展開がされていて読ませる力があった。ただ、主人公ら少年少女たちの会話の暴走具合が、悲哀と凄惨さ、そして怒りに満ちた舞台設定を希釈してしまったようで、ガツンというインパクトが足りなかった。
◆特別賞
『サージャント・グリズリー』
★作者:彩峰 優(あやみねゆう)
プロフィール:1989年8月3日生まれ。秋田県出身。山形の私立高校に入学するが、訳あって秋田市の通信制に通う。中学時代、四六時中発揮してしまう妄想癖を自覚し、頭を抱えて悩んだあげく、いつの間にか小説を書き始めていた。
★受賞者コメント
まさか受賞できると思っていなかったので、連絡をいただいた時は思わず白目を剥いていました。小説を書き始めて一年も経たない経験不足の僕ですが、これから先、皆に楽しんでもらえるような物語を書けるよう、命の限り頑張ります。
★作品内容
いじめられっ子、玖流玖準のクラスにやってきた女子転校生は、その名も“グリズリー・軍曹”。頭にクマのぬいぐるみを被り、軍服を着ていて……って、どう見ても男なんだけど!? なのに「美少女だ」と騒ぐ男子達。しかも準はなぜか軍曹に気に入られ、ムリヤリの握手で「友情」が成立(涙)。軍曹は何かと準につきまとい、家に押しかけ幼馴染のサーモンとの思い出を語りだすわ、ベッドにまで入ってくるわ、軍曹の家族(母・大佐、妹・少佐……やっぱ全員グリズリーかい!)まで引っ越してくるわで……。さらに謎の怪物テングダケの急襲により、どうやら準が何者かに狙われていて、グリズリー一家の正体は準の護衛役だったことが発覚! しまいにはサーモンに誘拐されて大迷惑この上なし! だがそれでも準は、孤独だった自分が、奇妙な仲間達に振り回されながらも癒されていることに気付く――。トンでもキャラたちが繰り広げる、超ナンセンスギャグ系ハートウォーミング・ウォーズ勃発!!
【選評】青柳昌行
今回の選考でもっとも“好き”だった作品です。文書や展開に稚拙な面は多々あるものの、とにかく設定によるオープニングのつかみはOK! そのまま一気に読ませた爆発力を買います。この“勢い”を大切に。
【選評】河西恵子
まずは他の作品にない読後感編集部選考において、評価よりもまず先に、このギャグの世界が理解できるかで、真っ二つに分かれた作品。だが、大爆笑は必至で、評価が今一つな人でも「不思議と最後まで一気に読めた」という声も。勢いある作品。好印象であった。文章も難解で奇を衒った書き方をせず、語感や、センテンスの区切り方などで、センスが感じられた。ドラマとしてはいささかシンプルで、メリハリ不足という意見も多かったが、最近ブームのネットゲームの世界と、リアルな青春がうまくリンクされたボーイミーツガールがギリギリで描けていた。良いテーマとドラマを追求していけば、共感性の高い作品を書いていけるのではないか。
◆奨励賞受賞
『すばらしき明日の反対側』
★作者:花谷敏嗣 (はなたにとしつぐ)
プロフィール:27日生まれ。京都産。サボテン好き。ちょっと前に某リリカルな魔法少女に遭遇、何かに覚醒して現在にいたる。
★受賞者コメント
これを選んで下さった方々のチャレンジ精神に深く感動しました。こうなったからには、やれるとこまでやってみましょう。
★作品内容
バンドが趣味で最近彼女もできた普通の高校生・タクミの前に、ある日コスプレ風の謎の美少女が現れた。なんと彼女は、タクミが三年前ネットで公開していた長編小説“邪王戦聖記”の主人公・火琉奈だった!? 設定どおりの特殊能力を操り、設定どおりに自分好みの超美少女――心揺れるタクミ。しかしタクミには、この“邪王戦聖記”をめぐる些細な行き違いから掲示板を炎上させ、サイト間の一大抗争を引き起こしてしまった苦い過去がある。それを機にネット活動をやめるほど深く傷ついたタクミは、今や“オタクと真逆”のバンド少年として暮らしている。イタくて恥ずかしい過去を捨てたい一方で、帰る家もない火琉奈を放っておけず、自室にかくまって秘かに共同生活を始めるタクミ。だがそんな頃、小説と同じく異形の怪物が街を襲い始めて!? 「俺のバカ!」と心で叫び、対峙した“過去の自分”に赤面沸騰!? 思春期の妄想が3次元(リアル)に暴れだす、悶絶と泣き笑いの超次元狂詩曲(ラプソデイ)!!
【選評】青柳昌行
かなり無茶な設定なわりに、きわめて身の周りで物語が進行する“四畳半SF”的な展開が心地よかった作品です。しかもラストがお茶の間とは。このテイストを維持しつつ、次回はもっとキャラクターを深めてほしいものです。
【選評】河西恵子
“今風”と“古い”との印象を分けた作品。オタクとネットの世界にどっぷり漬かったドラマで、一見人を選びそうだが、実は“青春時代の自分の恥ずかしい過去”と対峙する、というテーマ。ただ、主人公の成長がない。
◆奨励賞
『かみまご』
★作者:江都苑 (えつとその)
プロフィール:1986年生まれ。東京都町田市出身。現在、早稲田大学教育学部所属。明治時代の文豪の豪奢な生活を知り、「こいつは素敵だ」と純文学を志すが、興味の赴くまま、のそのそと歩き回っているうちに、今回の賞を頂く。
★受賞者コメント
受賞の電話を頂いた時は、興奮のあまり、あやうく自分を明治時代の文豪かと勘違いしてしまいそうでしたが、よくよく考えてみると、明治時代でも文豪でもありませんでした。これからは、そのようなミスがないよう気をつけます。
★作品内容
ある日突然、僕の目の前に美しい「天使」が降ってきた。人間に私は見えないはずと驚く天使・ルーに、僕は告げる。「すみません、人類は絶滅しちゃいました」――約300年前、繁栄を諦めた人類は全ての情報をマザーコンピュータに保存し、文明を人間の模造品パラヒューマンに託した。奇怪な生物が跋扈する森に囲まれた都市で、僕らパラヒューマンは人間と同じ生活をしている。そんな都市を支配し森の脅威を克服することが、この僕、敬太の野望だ。ルーは利用価値があるとにらんだ僕は、彼女を手元に置くことにした。記憶喪失のルーが持っていた奇妙な本と、それを盗んだ泥棒猫を捜し出すため、役立ちそうな友人達を動かす僕。ところがそんな僕の冷酷で打算的なやり方を、ルーは批判する。反論しつつも、純粋なルーの言動が僕の心に刺さり、不必要はずの感情が邪魔をする。僕はルーに惹かれているのか? そんなときルーが何者かに誘拐され……。クールな感性で描く未来型ヒューマンストーリー!
【選評】青柳昌行
今の人類が滅んだあとの後継文明が舞台。それだけでワクワクする設定なのですが、その状況をうまく活かしきれていないのが残念。せっかくの魅力ある設定なのですから、その使いこなし方を煮詰めていってください。
【選評】河西恵子
導入部は一見定番ながら、明かされる設定の斬新さで新鮮さを感じさせた。だが、設定の描写不足、謎の多さ、徐々に支離滅裂となっていくドラマなどが未完成の印象に。垣間見せた才能の片鱗がぜひ開花するよう願いたい。