TOP > 歴代受賞作品 > 第10回 小説部門
歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
593作品
最終選考候補
6作品
選考委員
青柳昌行(エンターブレイン常務取締役)、河西恵子(ファミ通文庫編集長)、ファミ通文庫編集部
総評
青柳昌行
ライトノベルの市場はドンドンと拡大し、書き手にとっても読み手にとっても"ライトノベルとは何か?"という理解度はグングンとあがっているわけですが、それが良い意味でも悪い意味でも応募作品に影響しているのが昨今の傾向といえるでしょう。今回も手馴れた作品、いわゆる誰もが"ライトノベルらしい"と思える応募作が多かったことで、全体的なレベルの底上げはされているわけですが、その反面で突き抜けた作品が少なかったのも事実でした。そんな中で受賞作に選ばれた作品は、模倣的な"らしい作品"ではなく、同じ"らしい"でも"自分らしい"という個性を出そうと努力した作品だと思います。今後もジャンルに乗っかった作品ではなく、ジャンルを引っ張るような作品を書き続けてほしいものです。
河西恵子
今回は今までにない多数のご応募をいただきました。近年のライトノベルの認知度を現してか、非常に幅の広い作品群が集まったのは喜ばしいことと感じています。しかし、選考を経てその中から浮かび上がってきた作品は、意外と似通ったものが多いことに気づかされました。そして、その大多数は人気作品の“模倣”作品でしかなかったのです。小器用な物真似ではなく、“模倣”を越えてオリジナリティを発揮できている作品が少なかったのが残念です。今回賞に選ばれた作品は、必ずその作品にしかない魅力を持っています。今後は、欠点を補うのではなく、その作品ならではの個性を、そして魅力を磨き伸ばしていくことに邁進していって欲しいと思います。
受賞作品
◆優秀賞
『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』
★作者:石川博品(いしかわ ひろし)
プロフィール:1978年岩手県生まれ。1986年、優勝の翌年に阪神ファンになり長い暗黒時代を経験。阪神がリーグ優勝した年からは自分が暗黒時代。世界が暗黒時代に突入するのを防いでいるのは俺、って考えながら眠る。
★受賞者コメント
「エンターブレインの賞もらった」と友達にメールしたら「飛龍の拳の続編まだ?」と返ってきて「あれブレインじゃなくてブレーンだから(笑)」とツッコんだはいいが本当はそんな友達いないって思い出して泣いた。
★作品内容
「王国民」の進学先として人気の全寮制高等教育機関、第八高校。「本地民」の僕レイチは父のコネで「八高」に進学することになり初めて「王国民」の友達ができた! 気になるあの娘はシャーリック王国王女・耳刈ネルリ。突然「ナラー」と叫びだす小さい女王様の好きな言葉は『支配』『蹂躙』『陵辱』! そんな彼女に全てを支配され身体の隅々まで蹂躙されるって想像したら、オラァわくわくしてきたぞ! その他、自己主張の激しい面子に囲まれてとりあえず流れに乗って活動委員に立候補してみたら何故か僕が選ばれてしまう! やったね! 今夜はステーキだ! しかし、実質「本地民」の組織である委員会の実態を知ったネルリは御立腹。さらに突然ベイン連合教国の▽(女の子)に告られて、みんなで楽しく勉強会。これなんてグループ交際? みんなと仲良くなり始めた矢先、ネルリの護衛役ナナイが委員会によって拘束されたことをきっかけに「王国民」VS「本地民」の争いが勃発! ――奇想天外ハイテンションスクールドラマが始まる!
【選評】青柳昌行
異世界を設定にした作品は、その世界観を読者に理解させるのに苦労するものですが、それをなんなく行なっている点を高評価。独特な"主人公の妄想・独り言"が少々うざい気もしますが、それが作品全体のテンポであり、個性になっているのも事実。読んでいて愉しくなる"明るい"作風とともに、長所としてさらに伸ばしていってほしいものです。惜しむらくは要素が盛りだくさんなだけに、ストーリーがただの一本線になっている点。
【選評】河西恵子
難読で難解。それが第一印象の作品でした。肌に合う合わないも大きく分かれるかもしれません。しかし、その強烈な個性と、文章酔いしそうな独特のリズムで紡ぎ出される、妄想に彩られたドラマは秀逸です。ただ、惜しむらくは、遊びが過ぎて、芯のドラマが見えにくくなり、作者が何を描こうとしているのかが伝わらない、というとこでしょうか。読み手の存在を意識していくことで、唯一無二の書き手へと成長して欲しいと思います。
◆優秀賞
『ギャルゲーの世界よ、ようこそ!』
★作者:タマモ
プロフィール:1978年3月11日生まれ。神奈川県出身。高校から専門を経て、ゲーム業界に就職し、なんとか仕事をしていけてるところで、シナリオ畑の人間でもないのに受賞という一大事件。人生はわからない。
★受賞者コメント
電話をいただいたとき、徹夜の眠気が一気に吹っ飛びました。感謝の気持ちでいっぱいすぎて、奇行に走りそうです。くれといわれてもあげませんし、返せとおっしゃってももう遅いですよ?
★作品内容
ギャルゲーユーザーなら一度は誰でも主人公になってみたいと思ったことがあると思う。俺こと『都築武紀【ルビ:つづきたけのり】』もそのひとりだ。そんなある日、人生の一大転機が訪れた。目の前に妖精さんが現れて願いを叶えてくれるという。ならば俺の願いはひとつ。この現実で『エターナル イノセンス』の世界を再現してくれ! こうして俺はゲームの主人公のポジションを手に入れた。幼馴染の美少女も、血の繋がらない義姉妹も、さらには学園のアイドルまでもが俺に好意を寄せるハーレム世界に早変わり! だけど、現実にはイベントフラグ総立ちの同時攻略ルートに入ってしまう。攻略知識を総動員して、彼女たちの幸せのために東奔西走するが、ゲームにはないリアルイベントに八方塞り!? どうすればいい!? 俺は本当に彼女たちが大好きなんだ! 真実と向き合い、自分の想いを貫き通すことで、歪ながらもついに念願のトゥルーエンドを迎えたのだが!? ――驚愕の超展開がギャルゲー世界の新境地を切り開く! ドラマチックオトコノ・サガ!!
【選評】青柳昌行
ゲーマー気質と、ゲームをよく理解した作品です。ゲームをモチーフにした小説は数多くありますが、"なぜゲームを主題にするのか"という設定を消化しきれているものにはなかなかお目にかかれないもの。そこに非凡なものを感じました。ただしエンディングに関しては、好みのわかれるところではあるでしょうが、もっとシビアに主人公の精神的な成長を促すもののほうが、読後感が爽やかになるのではと思います。
【選評】河西恵子
タイトル通りの内容で非常にわかりやすい作品ですが、ちゃんと読者を裏切ってくれるところが高評価でした。作者のゲームや世界観、キャラクターへの愛情が素直に感じられてさわやかなのですが、逆にそれが見え過ぎてしまってこれ以上の展開ができなさそうに思えるのが難点かもしれません。ドラマの構成もしっかりとしており、読む人の心理も意識できているので、今後はもっと“毒”や“クセ”のある作品にチャレンジして欲しいです。
◆奨励賞
『暗愚王』
★作者:刑部聖(おさかべ ひじり)
プロフィール:1982年8月27日、滋賀県生まれ。京都産業大学を卒業後、一般企業に数年間勤めるも夢を諦めきれず、「一年間で受賞できなかったら再就職するので」と周囲を説得して退社。その11ヶ月後に滑り込みで受賞する。
★受賞者コメント
受賞の連絡を頂いた直後、家族や友人達に報告したところ、「それよりあんた就職は?」「出版? 自費出版するんか?」と大いに祝福されました。皆様に支えられての受賞です。本当にありがとうございます。
【選評】青柳昌行
"策謀"というか"騙しあい"がストーリーの重要なファクターなはずなのに、その点においてツイストが足りないため緊張感が生まれてこない。キャラに魅力がある分、さらに目立つ粗になって残念だった。
【選評】河西恵子
流行に流されず、自分の書きたいものを書いているのは好印象です。ただ、まだキャラクタードラマに必要な物が本質でわかっていないので、物語を構築するものがなんであるか考えていって欲しいところです。
◆東放学園特別賞
『亜弥子のブラックホール』
★作者:黒津賀来志(くろつが らいし)
プロフィール:7月28日生。神奈川県出身。成蹊大学文学部を出てIT企業に就職した後、思うところあって東放学園映画専門学校に入学する。
★受賞者コメント
子どものころから憧れ、今までずっと夢を捨てられずにいた「小説家」になることができました。今まで支えてくださったすべての友人と先生、そして家族に感謝を捧げます。
★作品内容
「奇妖霊様(きようりよう)」。人に取り憑き、宿主の意志とは無関係に特異な力を振るう神とも魔物とも言える存在。だが取り憑かれた人の中には、贄を捧げその能力を操る「奇妖霊使い」と呼ばれる存在がいた。メイドの亜弥子(あやこ)は、手にした物を不意に“消してしまう”謎の力に困っていたが、主の九浜辺玲花(このはまべれいか)はそれを知りつつも、二人だけの秘密にしていた。ある日二人は避暑先で偶然訪れた神社で「奇妖霊使い」の一ノ宮鬼灯(いちのみやほおずき)と出会う。彼女により亜弥子は袋様(ふくろさま)という奇妖霊に憑かれていることが判り、鬼灯の持つ錆様(さびさま)の能力で、袋様の力を“錆びさせ”消失させることに成功する。鬼灯の能力に興味をもった玲花は彼女を雇い入れるが、それ以来玲花たちの周りには、様々な「奇妖憑かれ」のひと達が集うこととなる。並行世界(パラレルワールド)を行き来する同級生。眠り続ける幼い少女。人の心を操るパティシエ。富豪の家に育った孤高の美少女玲花は、様々な出会いの中で、人の弱さや絆の大切さを知っていく。奇想に満ちた優しさ溢れる連作ファンタジー!
【選評】河西恵子
キャラクターに若干リアリティに欠けるところはあるものの、“奇妖霊”という設定とネーミング、そしてしっかりとヒューマンドラマを描いているのが魅力になっています。ただ、本作は連作形式になっており、物語全体を通しての大きなテーマが不足しているのと、ドラマの盛り上がりに欠けるので、もっと読者を意識し、エンターテイメント性を高めていけるよう努力してください。読者を惹き付けるキャッチーさも、必要な要素です。