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歴代受賞作品
受賞作品
◆小説部門 入賞
『深緑の魔女』
★作者:伊東孝泰(いとうたかやす)
プロフィール:1965年11月生まれ
★作品内容
大陸の96パーセントを占める樹海。そこでは、圧倒的な生命力に押しつぶされそうになりながら人類は濠と城壁でかこまれた場所で細々と暮らしていた。その樹海の辺境に存在する国パドゥーラは、生態系の異常に苦しめられていた。  この国にやってきた流れのフォレストセイバー(生態系をコントロールすることを生業とする人々)・ライカは、他の三人のセイバーとともに、領主セメネスに異常発生したバンクシアワームの駆除を依頼される。莫大な報酬を目的として仕事を受けたライカは、ワームと成虫の蛾の習性を利用し見事駆除に成功するが、その間、他のセイバーふたりは不可解な死をとげていた。パドゥーラにかかわったセイバーはすべて死ぬ。この国は呪われている、というウワサは真実なのか? 樹海に被われた特異な世界を舞台に、「真森人」という差別される出自を隠し、自分だけを信じ、他人を騙しても生き抜くアンチヒーロー、ライカの生きざまを活き活きと描くピカレスク・ファンタジー。
【選評】朝松 健
樹海のイメージと描写に迫力があった。濃密な緑の匂いを感じさせる。あえて言うならナウシカのハードボイルド版という印象だ。とにかくこんな「世界」は読んだことがない。行間からも元気とパワーが溢れている。細部を磨かなければならないが、「いける」。わたしはこの作品に[森林ウェスタン]という名を贈り、入賞作に推したいと思う。
【選評】久美沙織
他の選考委員が高く買った作品だが、わたしは困った。エコロジーをテーマにしながら生物や生態系に関する理解や知識が正確でなく、いかにも「どろなわ」っぽい点が気になったのだ。冒頭、舞台は熱帯ジャングルを想起させるのに、生えている植物が「ジャイアント・オーク」。オークといえばイングランド、つまりほとんど寒帯の植物ではないか。もっと熱帯らしい選択がいくらでもあろうによりによってオークにする意味もセンスも理解できない。基本的には小説を書くのがじょうずなひとだと思う。今後なにかを書くときには、そこで題材とされるものを実際ほんとうに大事にしている(強烈に愛してる)人間に対する礼儀を、ぜひとも心がけてほしい。
【選評】中村うさぎ
人間を圧倒する熱帯雨林の描写、そして、そこに棲息する動植物の生態を巧みに使った作戦の応酬が見事。伏線もきっちり張られていて、うまくできたストーリーだと感心した。エコロジーをテーマにしながら、主人公が「環境を守る」といった薄っぺらい正義感を持たない点にも好感が持てる。次の作品が楽しみな人だ。
◆小説部門 佳作
パラレル・パラダイム・パラダイス』
★作者:飛田 甲(とびた こう)
プロフィール:1969年1月生まれ
★作品内容
突如世界の数十箇所で発生した「空間重合」。これにより、人類は平行世界(パラレルワールド)の別人類・理唱種との邂逅をはたした。彼らは、科学技術を世界の基礎とする人類と異なり、理法という魔法のような技をもちいる技術体系を発達させていた。数年に及ぶ戦いの末、両種族は和解し共存の道を模索しだした。その共存の象徴的存在のひとつ、日本の本州にある、第21重合地帯の国立共栄学園高校。両種族が学ぶ、この高校の科学部に所属する坂本祐司は、部長・兵藤駿兵の企画した春休みの部合宿で理唱世界にでかけ、そこで偶然、澪と名乗る寡黙な理唱種の美少女を人類製の戦闘ヘリから救う。謎だらけのこの事件は、事故として発表されるが、新学期、2年になった祐司は新入生として共栄学園高校に入学してきた澪と再会する。彼女は駿兵の強引な勧誘で科学部の部員となるが、澪の周囲には、次第に不穏な出来事が起こりはじめる――。 人類と理唱種双方の体系(パラダイム)を持つ謎の少女澪=未生。そして彼女に淡い恋心をいだく祐司を軸に、両世界の根幹を揺るがす「パラダイム・ハザード」を画策する一味と、祐司、駿兵、恋人の真紀たちの対決を描く、新感覚学園アクション。
【選評】森
まず、しっかりした文章に好感を覚えた。作品の「世界」と「背景」も非常に分かりやすく、「設定」も物語とうまく絡み合っていた。この作者はなにかいいものをもっている、とピカッときた。あと何作か書いて、そのいいものを前面にだしてほしい。 今後に大いに期待する。
【選評】久美沙織
理唱世界という異世界の風景や事物が一切書かれていない。「異様な世界が」と、抽象的に説明されているのみ。「理唱」とか「重合」とかという斬新な用語を持ち出してこられたので、それがいったいどんなとんでもないことがらなのか、どんなとんでもない世界なのか是非とも具体的に知りたかったが、期待をはぐらかされてガッカリ。そもそも、作者がやりたかったのは古きよき「ちょっとSFな学園ドラマ」だったのではないか。そのことそのものが、どうしようもない古さや「いまさら感」を感じさせる。この作品には、そのマイナス分を打破しうるだけの強烈な個性や魅力が、キャラや「理唱」世界に必要だったはず。
【選評】中村うさぎ
過不足ない作品とは思うが、なんとなく盛り上がらないのは、おそらく視点があちこちに飛びすぎるせいだろう。三人称は、視点となるキャラが多すぎると、全体にまとまりのない印象になってしまうのだ。主人公を際立たせるためにも、もう少しキャラクターの整理を。そして、ヒロインのキャラはもっと練り込んで欲しかった。
◆小説部門 佳作
『GUNNER』
★作者:てつま よしとう
プロフィール:1963年1月生まれ
★作品内容
西暦二○○×年、日本。続発する犯罪の凶悪化、広域化、国際化にともない警察庁はより柔軟に犯罪に対応するため、大規模な組織改編に踏み切った。これにより、警視庁は全国を管轄する広域警察へと発展し、首都の治安をになう役目は新設された「東京都警察本部」に委譲された。 都警・航空機動隊有明分署所属の航空マニアのヘリパイロット川井巡査部長と特殊部隊(SAT)くずれの観測手の沢村巡査長は、武装した銀行強盗犯をヘリで追跡。デルタ・フォースの訓練も受けた沢村の無謀とも言える活躍で、なんとか犯人を逮捕するが、飛行規定違反、銃の不法持ち出し、無断発砲などを問われ、上司の井上主任とともに都下大笠原諸島の航空機動隊大笠原分署へ飛ばされてしまう。島流しの身の三人はそれぞれのんびりと南の島暮らしを楽しんでいたが、突如現れた法務省警察局長に、日本への中古武器の密輸船捜索を命じられる。海上自衛隊、海上保安庁の巡視船とのコンビで洋上哨戒を行う沢村たちは、密輸船を発見するが、停船命令を無視し逃走したため、沢村が単独乗り込みプラスティック爆弾を仕掛けしずめてしまう。しかし、密輸組織側は対航空機動隊対策として、つぎの密輸船になんと攻撃ヘリを搭載してくるのだった。しかも、沢村が対峙した攻撃ヘリのパイロットは、なんとデルタでともに訓練を受けた女性パイロット、ヴィーエだった――。近未来の日本を舞台にした、爽快感溢れる航空ポリスアクション。
【選評】森
凡庸なタイトルばかりの候補作の中で、このタイトルは輝いていた。題名も作品の一部であることを示している好例だろう。文章はしっかりしていた。SFハードボイルドのツボにもはまっている。ただ、ところどころに「こんなものだろう」という作者の気持ちが垣間見えてしまった。のれなかった作品である。
【選評】久美沙織
ニヤニヤ笑いながら面白く読んだが、結局連続物の「エピソードいくつ」という感じに小さくまとまってしまっていて、ガックリ。訓練所で同僚だったが後に敵にまわった女を、ひとり参りましたといわせたぐらいで「めでたしめでたし」になるのは、1クール13回のうちの1回、ほんの1時間のうちのラストであろう。主人公・沢村と関西弁の川井と上司のトリオの雰囲気は悪くはないが、そこに、刑事ドラマ的リアル(たいがいのひとは見慣れてる)ではなく、ほんもののリアル(多くの人間にとって新鮮)をいれてほしかった。また、女性キャラがあまりにもステレオタイプすぎる。今後の精進を期待する。
【選評】中村うさぎ
このまま書店に並んでいてもおかしくない、小説的には完成された作品だ。しかし、どこかで読んだようなストーリー、どこかで見たようなキャラクター……作者のオリジナリティをどこにも感じない。特にキャラクターがあまりにも薄っぺらくて、主人公にもヴィーエにも感情移入できない。文章が巧いだけに残念だ。